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細菌感染症の治療や手術時の感染予防に使われ、医療現場には欠かせない薬剤が抗菌薬です。しかし近年、その抗菌薬が原料の調達不安から欠品に至るというケースが発生しており、医療関係者の間で危機感が高まっています。

ペニシリン系抗菌薬で多くのシェアをもつMeiji Seika ファルマは、この供給不安を解消すべく、厚生労働省の「医薬品安定供給支援事業」に応募。採択を受け、岐阜工場で約30年ぶりにペニシリン原薬の製造に着手しています。

目次

  1. 1抗菌薬は替えが利かない
  2. 2国内医療を支える「ペニシリン」を確保せよ
  3. 3「抗菌薬のMeiji Seika ファルマ」としてプロジェクトに参入
  4. 4岐阜工場の資産を最大活用して
  5. 52025年の本格稼働を目指して
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抗菌薬は替えが利かない

「20世紀最大の発見」とも言われる「ペニシリン」。1928年、イギリスの細菌学者フレミング博士によって青カビから発見された、世界で初めての抗生物質です。12年後の1940年にはフローリーとチェインという二人の研究者が大量生産に成功し、以降1世紀の間に、少なくとも数百万人の命を救ってきました。現在でも呼吸器疾患の治療や外科手術の前後で用いられ、あらゆる医療現場で活躍しています。

ペニシリンに代表される各種の抗菌薬は、医療の根本を支える、替えの利かない薬といえます。その安定供給が最大の課題となる中、日本政府は近年、抗菌薬の国産化事業を支援する枠組の整備を進めています。

国内医療を支える「ペニシリン」を確保せよ

政府による取り組みのきっかけとなったのは、ペニシリンと同様に日本の医療に欠かせない抗菌薬「セファゾリン」でした。2018年末に、突如セファゾリンの供給が危ぶまれる事態が発生したのです。当時国内でセファゾリンを供給していた代表的なメーカーは、製造に欠かせない原材料の調達を、ほとんど中国の1社に依存していました。その企業が複数のトラブルを受けて供給を一時停止したため、国内のセファゾリンが不足。代替抗菌薬も相次いで不足し、多くの医療機関に影響がおよんだのです。

これを受けて、2019年に、関連の4学会が政府に要望書を提出、特に欠かせない薬剤「Key Drugs」の安定供給について提言しました。さらに、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大していた2020年には、関係者会議が発足し、Key Drugsを含む、絶対に確保しておくべき医薬品のリスト(安定確保医薬品)が作成されました。
そして2022年12月、国民の生存や国民生活・経済活動に甚大な影響のある物資としてペニシリン系抗生物質2剤、セファロスポリン系抗生物質2剤が特定重要物質に指定され、これらの原薬の国産化が進められることになりました。

公益財団法人日本感染症医薬品協会に「βラクタム系抗菌薬原薬国産化委員会」が設置され、産官学を挙げて原薬の国内製造を推進していくこととなったのです。

「抗菌薬のMeiji Seika ファルマ」としてプロジェクトに参入

こうした国の動きを受け、ペニシリン系抗菌薬の共通の原料である「6-APA」の国内製造を担う企業としてMeiji Seika ファルマは名乗りを挙げました。

ペニシリン系抗菌薬は、他の薬品への混入を避ける厳格な「封じ込め」が必要となる薬剤です。生産設備も他の薬剤とは完全に分けるなどの対応が求められます。

明治グループは70年以上にわたってペニシリンやそれに続く各種の抗菌薬を生産しており、設備やノウハウを有していることが強みです。Meiji Seika ファルマは社内に専任組織として「βラクタム国産化推進グループ」を立ち上げ、かつてペニシリンの生産を担っていた岐阜工場にて、「6-APA」の製造に向けた生産体制構築に着手しました。

三友 宏一

Meiji Seika ファルマ株式会社
岐阜工場長

6-APAは特定重要物質に指定されたペニシリンの出発原料にあたり、これがないと原薬の生産ができないという非常に重要な物質です。一方で生産には菌株と大型培養設備、大量の水、適切な廃水処理設備なども必要ですから、すぐに着手できる工場はそうはありません。
先の長いプロジェクトにはなりますが、医療現場に不可欠な医薬品の生産工場を作り上げていくというのは非常にやりがいのある仕事。従業員一同、高い使命感を持って業務に当たっています。

守屋 達樹

Meiji Seika ファルマ株式会社
βラクタム国産化推進G長

当社がペニシリンの国内生産をやめた1994年当時の製法は、まだ人手に頼るものでした。それ以降も生産を継続した海外では、生産性向上・効率化が進み、現在に至っています。
こうした中で私たちは、競争力の高いペニシリン製造技術の確立を目指しています。最新のDX・自動化技術を駆使して、効率化・省人化を図ることで、この目標を実現していきたいと考えています。

岐阜工場の資産を最大活用して

Meiji Seika ファルマの岐阜工場は1971年にペニシリンの原薬工場として操業を開始し、1994年までペニシリンの製造に携わっていた工場です。現在も生産菌株を保管し、国内最大級の大型培養設備や大型用役・排水処理設備を有するとともに、水が豊富な土地柄にあることなども、ペニシリンの製造に必要な条件を満たしています。原薬製造に関わってきた経験者・作業者が多く所属しており、ノウハウが保たれていることも強みです。

岐阜工場ではこうした資産を活用し、6-APAの大量製造に向けた環境構築を進めています。また、あるものを活かすだけでなく、管理の厳密化や省力化に役立つAI技術などの導入、周辺環境への影響を抑える排気設備・廃水処理設備の強化など、必要な部分は適宜アップデートし、現代の要求水準にあわせた最適な製造環境を整えています。

山田 浩一郎

岐阜工場 製造部一室

私は1984年に入社して、長らく岐阜工場でペニシリン製造に関わっていました。原価高騰などの影響を受けて国内生産がストップしたときは非常に残念な気持ちでしたが、こうして再び生産に関わることになってワクワクしています。私自身は定年が近いのですが、若手にしっかりと技術を継承していきたいです。
もちろん、当時のままのやり方でもいけません。例えば、周辺環境への配慮。排水処理などで最新の設備を入れることはもちろん、都市化が進んだ今は、騒音対策などの強化も必要です。製造管理の面でもDX化を見込んで、必要なデータベースの作成などを進めています。

2025年の本格稼働を目指して

必須医薬品は、現代医療に欠かせない、日常を支える医薬品であり、早期の供給安定化が望まれます。

Meiji Seika ファルマでは、2025年に6-APAの製造を本格的に立ち上げることを目指しています。さらには、その先にある原薬についても製造環境を整えていく予定です。

国内での原薬生産体制確立に少しでも貢献できるよう、今後も取り組みを続けていきます。