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成人T細胞白血病・リンパ腫
(ATL)について

監修
埼玉医科大学国際医療センター 造血器腫瘍科
教授 塚崎 邦弘 先生

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL:adult T-cell leukemia-lymphoma)は1977年に日本で発見された疾患であり、血液のがんの一種です。
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1:human T-cell leukemia virus type-I)というウイルスが、母親の母乳中の感染したTリンパ球から経口で児のT細胞に感染し、感染したT細胞ががん化してATL細胞となり、それが増殖することで発症します。

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは

感染経路とHTLV-1キャリア、HTLV-1関連疾患

HTLV-1の主な感染経路は@母乳による母子感染A性感染B輸血ですが、日本では献血者の感染症スクリーニングにHTLV-1が含まれており、輸血による感染は防がれています。また、日本全国の妊婦健診において抗HTLV-1抗体検査が公費負担となり、陽性の場合は母乳ではなく人工栄養が推奨されています。HTLV-1の感染力はとても弱いため、授乳や性交を除く日常生活で感染することはありません。
HTLV-1キャリアとは、HTLV-1に感染しているもののHTLV-1関連疾患を発症していない人(HTLV-1抗体陽性患者)のことです。HTLV-1キャリアは国内では九州、沖縄などの西日本に多いといわれていましたが、2006、2007年の調査で大都市を含む地域に拡散していることがわかりました。
HTLV-1関連疾患としては、血液腫瘍のATLの他に、それぞれ脊髄と目のぶどう膜の慢性炎症であるHTLV-1関連脊髄症とHTLV-1ぶどう膜炎があります。

ATLの発症率と発症年齢

すべてのHTLV-1キャリアがATLを発症するわけではなく、母乳で感染した後に1人のHTLV-1キャリアが生涯でATLを発症する確率はおよそ5%(20人に1人の割合)といわれています。若い年齢でのATL発症は非常にまれで、ほとんどの患者さんが40歳以上で発症しており発症年齢中央値は約70歳です。

症状

全身のリンパ節や肝臓・脾臓の腫れ、赤い発疹やしこりなどの皮膚症状、原因不明の発熱、下痢や腹痛などの消化器症状がみられることがあります。病状が悪化すると高カルシウム血症(高Ca血症)による全身の倦怠感や便秘、意識障害などが起きたり、免疫機能が低下することでさまざまな感染症にかかりやすくなることがあります。

検査・診断

上記に該当するような症状がみられ、血液中又は生検したリンパ節/その他の臓器に花弁状の核を有する異常リンパ球(ATL細胞)があり、それが免疫染色で成熟T細胞性であることが確認されれば、血液検査でHTLV-1抗体を調べます。その結果、陽性であればATLと診断されます。
その他の病変がどのくらい広がっているか確認するためにCT、PET、MRI、内視鏡、骨髄検査、髄液検査などを行うことがあります。

分類

予後因子解析と臨床病態の特徴から、白血化、臓器浸潤、高LDH血症、高Ca血症の有無と程度により、ATLは急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に病型分類されます。急性型とリンパ腫型は、それぞれ血液とリンパ節が主病変のことが多く、時に消化管、胸水、腹水、骨、中枢神経などの病変もあり、高Ca血症や著しい高LDH血症を呈することが多く、急激な経過をとります。慢性型とくすぶり型は、血液中にATL細胞を認めますがそれぞれ白血球数が増加と正常を呈し、皮膚病変が多い一方で消化管、胸水、腹水、骨、中枢神経の病変はなく、高Ca血症や著しい高LDH血症は認めず、無治療でも数年以上経過観察されることも多いです(表)。これらの頻度は急性型57%、リンパ腫型19%、慢性型19%、くすぶり型6%であり、急性型が多いとされています。

表 ATLの病型分類

早急な治療が必要な状態

急性型(きゅうせいがた)

血液中や重要な臓器でのATL細胞が急速に増えている状態です。
血液中のカルシウム上昇がみられることがあり、早急な治療が必要です。

リンパ腫型(りんぱしゅがた)

ATL細胞が主にリンパ節で増殖している状態です。急性型と同様に急速に症状が出現するため、早急な治療が必要です。

早急な治療を必要としない(主に経過観察を行う)状態

慢性型(まんせいがた)

血液中の白血球数が増え、多数のATL細胞が出現しますが、予後不良因子(下記参照)を有さない場合、その増殖速度はゆっくりです。

くすぶり型(くすぶりがた)

血液中の白血球数は正常ですが、血液、皮膚、又は肺にATL細胞が存在するもの。

慢性型とくすぶり型は経過中に急性型へ移行することがあり、その場合は早急な治療が
必要です。

治療法

治療法は病型により異なります。急性型、リンパ腫型、予後不良因子(LDH、アルブミン、BUNのいずれか1つ以上が異常値)を持つ慢性型は急速な経過をたどることが多いことから「アグレッシブATL」と呼ばれ、8種類の抗がん薬を用いる多剤併用化学療法(抗体医薬が併用される場合もあります)が推奨されています(年齢や全身状態、合併症などによっては他の治療法が選択されることもあります)。多剤併用化学療法による効果が得られ、年齢や全身状態、合併症などに問題がなく、適切なドナーが見つかった場合は長期生存が期待できる同種造血幹細胞移植を検討します。多剤併用化学療法で効果がみられない場合は、分子標的治療薬などが治療の選択肢となります。
一方、くすぶり型や予後不良因子を持たない慢性型は、比較的ゆっくりとした経過をたどることが多いことから「インドレントATL」と呼ばれ、治療を行わずに経過観察又は皮膚病変などに対する局所療法となります。症状が悪化した場合はアグレッシブATLと同様に化学療法が行われます。

経過・予後

急性型、リンパ腫型、予後不良因子を持つ慢性型は急速な経過をたどることが多いため、早急に治療を行う必要があります。一般的に予後はあまりよくありませんが、同種造血幹細胞移植では治癒が期待できます。
予後不良因子を持たない慢性型、くすぶり型はゆっくりとした経過をたどることが多いですが、アグレッシブATLへ移行していないか経過観察をしていく必要があります。

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