日本における真のCOVID-19の感染者数は公式報告の1.77倍と推計 ~カナダBlueDot社との共著論文がJournal of Infection and Chemotherapy誌に掲載~

2022年11月16日 プレスリリース

Meiji Seika ファルマ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林 大吉郎、以下Meiji)とカナダのBlueDot社は、2021年12月末時点における日本の真の新型コロナウイルス感染者数は公式に報告された人数(173万人)の1.77倍であったと推計し、その共著論文が「Journal of Infection and Chemotherapy」に掲載されましたのでお知らせします。

COVID-19の感染者数に関して、パンデミック初期には軽症・不顕性感染などの疫学的特徴や、検査可能数が限られていたため、実際の感染者数が十分に把握されていない可能性がありました。そこでMeijiとBlueDot社は、報告された死亡数と年齢別の感染症致死率(IFR)を用いて、真の感染者数を推計しました。研究結果によると、2021年12月末時点で、日本では全人口の2.40%の307万人が感染していたと推定されました。これは、公式に報告された人数(173万人)の1.77倍になります。また、この結果が日本で実施された断続的な血清疫学調査(抗体保有率疫学調査)による推定結果と一致していることも確認しています。

一方で、推計された感染者数に基づく感染率(2.40%)は、他の先進国の感染率(報告されている感染者数の人口比)と比べると、低値であったこともわかりました。これは日本におけるマスク着用のコンプライアンスの高さやクラスター対策による感染拡大防止の成功などの効果と考えられます。このように各国とは異なる感染状況であることも踏まえ、今後も起こりうるCOVID-19変異株の流行を抑制するためには、本研究のような真の感染者数の推計がその監視体制の重要な要素となり得ると考えます。

【先生からのコメント】

川崎市健康安全研究所 岡部信彦所長

昨年末時点で新型コロナの感染者数は報告数の1.77倍、全人口の2.40%にとどまっていたと推定されたことから、わが国では感染対応は比較的上手く実施できていたとも考えられます。一方では、感受性者がまだ相当数いることも考えられることになります。本研究のようなモデルにより感染拡大状況の全体像の把握が可能になれば、ウィズ・ポストコロナ時代において、より実情に合った感染症対策を講じる際に非常に参考になるでしょう。

東邦大学微生物・感染症学講座 舘田一博教授

血清疫学調査結果とよく一致したことから、本モデルによる新型コロナ感染者数の推測は信頼性のあるデータであると考えます。日本においては感染者数が少なく、十分な集団免疫を獲得できていないことが示唆されましたので、疫学調査が未実施の時期を含めて本モデルで最新の未感染者数を推計し、流行予測に役立てることを期待します。

国立がん研究センター中央病院 岩田敏先生

検査陽性者以外の方も含めた新型コロナ感染者数に関する情報は、臨床医として非常に価値があると考えます。今までは血清疫学調査のみの推計でしたが、本論文のように公開データから推計出来るようになると非常に有用です。一方で、死亡者数からの推計であることから、病原性の異なる変異株の流行、治療法の進展、医療アクセスの改善などの状況変化を踏まえ、今後どのようにIFRを補正していくかが重要となってくるでしょう。

MeijiとBlueDot社は、研究をさらに進め、2022年1月以降の患者数の推計を試みていく予定です。2022年以降はオミクロン株が流行し、感染者数が劇的に増加した一方、重症化率および致死率は低い特徴が報告されています。日本の皆様からのご要望にお応えできるよう本論文で報告したモデルをさらに進化させ、精度の高い情報をタイムリーにご提供できるよう、研究にチャレンジしていきます。

Meijiは感染症のリーディングカンパニーとして、診断・予防・治療に資する製品を提供するとともに、感染症に関する信頼性の高い情報をタイムリーに提供することで、感染症のリスクから人々を守ることに挑み続けます。

以上

参考

論文掲載情報

Title: Inferring the true number of SARS-CoV-2 infections in Japan

研究の概要

目的 報告された症例と死亡者のデータを組み合わせた統計モデリングの枠組みを用いて、2020年1月16日から2021年12月31日までの日本における真の感染者数を推計。
方法 COVID-19で報告された死亡者数と年齢別のIFRを用いて、真の感染症数を算出。IFRの推定値は、公表されている研究から情報を得て、薬剤による介入、集団予防接種、および進化する亜種の影響を反映するように調整。IFRの不確実性を考慮し、関連する分布から値をサンプリング。
結果
  • 2021年12月31日の日本のCOVID-19感染者数は、全人口の2.40%、307万人(信頼区間205万人~424万人)と推定。【下図A】
  • これはPCR検査により把握、報告された数の1.77倍。
  • 年齢別では20歳未満および60歳以上で乖離が大きい。【下図B】
  • 本モデルによる推定感染者数は血清疫学調査と一致。
考察
  • 推測された感染者率が2.40%と先進国(米国、英国など)の中でも低かったのは、①マスク着用コンプライアンスの高さ②クラスター対策による感染拡大防止の成功③飛沫、エアロゾル感染する危険因子の発信による自主規制の効果と考えられます。
  • 感染報告数と推定数の乖離が生じた理由としては、①パンデミック初期(2021年前半まで)は、軽症者は4日以上症状が続く場合しかPCR検査の対象とならなかったこと②2021年末までにはワクチン接種率が80%を超えるほど接種が進んだことから無症候性感染者の確認ができなかったためと考えられます。
  • COVID-19変異株の流行を抑制するためには、ワクチン接種戦略と監視体制が必要であり、本モデルを用いるような感染者の推測は監視体制の重要な要素となり得ることが示されました。
(出典:JIC. 2022;28(11):1519-22.)
  • 図A:2020年1月16日から2021年12月31日までの日本におけるSARS-CoV-2感染者数の累計推計値(青線)。青色部分は、1000回のモンテカルロシミュレーションによる10%~90%信頼区間を、灰色と赤色の曲線はそれぞれ報告された累積感染者数と死亡者数を示す。3つの血清疫学調査(黒丸)により、結果を検証した。
  • 図B:年齢層別に分類した推定総感染者数。緑色は推計値を、灰色は報告された症例数。

BlueDot社について

BlueDot社のインテリジェンス・プラットフォームは、公共機関や民間企業が、世界の生物への脅威を迅速に特定、理解し、効果的に対応することを可能にします。人間の知見と人工知能を組み合わせて世界中の何百もの感染症や症候群を追跡し、学術的なデータ科学の専門知識を適用して世界的な広がりと影響を予測します。BlueDot社は、疾病事象の発生を顧客が最初に知り、対応準備を整え、重要事項に集中し、必要なときに迅速かつ自信を持って行動できるようにします。2013年に設立され、シカゴ市、台湾CDC(中央流行感染症指揮センター)、エア・カナダ社などに利用されているBlueDot社は、クライアントが重要な意思決定を明確かつ自信を持って行えるよう支援します。詳細は同社HPをご参照ください。