造血幹細胞移植を行う約1週間前から連日、大量の抗がん剤を投与(大量化学療法)したり、放射線を照射(放射線療法)したりして、患者さんの体の中にあるがん細胞をできるだけ消滅させるとともに、患者さん自身の免疫細胞のはたらきを十分に抑え、移植する造血幹細胞が拒絶されずに受け入れられるようにします。
移植前処置によって、患者さん自身で白血球を造ることができなくなり免疫機能が低下します。これにより細菌や真菌(カビ)、ウイルスに感染しやすくなるため、移植前から特別な無菌室(防護環境)に入ります。また、患者さん自身では、赤血球や血小板も造ることができなくなるため、貧血や出血がおこりやすい状況になります。患者さんの年齢や体力、病気の状況、移植される細胞によって前処置の方法はさまざまです。化学療法のみの前処置もあれば、化学療法と放射線療法を組み合わせた前処置もあり、各患者さんに応じて、移植した造血幹細胞が増殖しやすい環境を作ります。
(移植前処置に伴う副作用についてはこちら)
抗がん剤や吐き気を予防する薬を造血幹細胞移植の約1週間前から連日投与します(前処置で使う抗がん剤の内容によって違います)。また同種造血幹細胞移植では、移植の数日前から、ドナー細胞の拒絶を予防するために患者さんの免疫細胞を抑える薬(免疫抑制薬)などを、中心静脈カテーテルから点滴で投与します。また、けいれんを予防する薬を抗がん剤投与前から内服することもあります。
薬剤は患者さんの年齢や体格、全身状態、HLAの適合率、移植する細胞の種類などをふまえ、担当医が決定します。
若い方の移植前処置では、患者さん自身の骨髄機能が破壊されるほどの抗がん剤を大量に使用する化学療法を行い、がん細胞の完全消滅と、ドナー細胞の拒絶を予防するために患者さん自身の免疫細胞の抑制を目標とします。
骨髄破壊的前処置(MAC)で使用する大量の抗がん剤は、患者さん の健康な細胞に大きなダメージを与え、免疫力の低下による感染リスクを致命的にすることがあります。このため、身体的予備能力が低いと考えられる高齢者や併存疾患のある患者さんの同種造血幹細胞移植では、より強度を落とした抗がん剤で移植前処置を行うことがあります(骨髄非破壊的前処置, RIC)。骨髄非破壊的前処置(RIC)でも患者さん自身の免疫機能は抑えられるものの、やはり、患者さんの免疫細胞がある程度残ったためにドナー細胞を拒絶する反応が強く出る可能性や、がん細胞を破壊しきれなかった場合に再発するリスクは骨髄破壊的前処置(MAC)より高いとされています。
同種造血幹細胞移植では大量化学療法とセットで行われることがあります。骨髄破壊的前処置では、1日1~2回の放射線照射を3~4日に分割して行います。骨髄非破壊的前処置では、1日1~2回のみの放射線照射が付け加わることもあります。いずれも、がん細胞の消滅や生着不全(ドナー細胞の拒絶によって移植後に免疫機能や造血幹細胞の回復ができない状況)の予防を目的としています。
一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会(2024年5月1日アクセス)
https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=16
国立がん研究センター:がん情報サービス(2024年5月1日アクセス)
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct02.html#anchor2
国立がん研究センター中央病院12B病棟 同種造血幹細胞移植療法を受けられる方へ(2024年5月1日アクセス)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/stem_cell_transplantation/Allo.pdf
国立がん研究センター中央病院12B病棟 自家造血幹細胞移植療法を受けられる方へ(2024年5月1日アクセス)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/stem_cell_transplantation/auto.pdf